2008年10月22日水曜日

黒電話

 筑波で私の使うオフィスには黒電話がある.全体に黒い光沢があって 700 系新幹線の前端部を圧縮したような形の前面には大きな数字のダイヤルが付いている.受話器は本体に対して横掛けになっていて、コイルした弾力のあるコードで本体とつながっている.プッシュホンでは全ての番号は対等であるけれど、ダイヤル式では数字によって送信に要する時間が異なる.ダイヤルを廻して電話番号を送信するのには結構時間がかかるので、その間に相手先の受話器に出るべき人とのやり取りの出だしや道筋を考える暇もある.呼び出しベルは喧しいけれど電子音ではないせいもあってか、なんだかのどかで温かな緩い感じがする.要するになんだか人間臭い電話なのである.私の小学校低学年のころ、父母の田舎には黒電話よりも前の呼び出し式の電話もあった.私たちの世代は電話機の変遷をずっと眺めてきて、とくに黒電話との付き合いは長かったのだが、プッシュホンが現れてからの変化は早かった.あっという間に黒電話が駆逐された.子機というものが出現して、家庭内でワイヤレスになったと思う間に、携帯電話というものが出現して、世界中がワイヤレスで繋がるようになってしまった.私たちが子供の頃に親しんだアニメである『スーパージェッター』では、時間旅行者で未来から来たジェッターが愛機である『流星号』を呼ぶ時に、腕時計型トランシーバーで「流星号、流星号、応答せよ!」とやっていた.あのころ、ジェッターのトランシーバーには電線がないのに話ができることを、私も同級生たちも不思議に思い、未来はすごいなあと思いつつも、おぼろげに実現しないだろうなあと思っていた.でも、今やそれは携帯電話という形で完全に実現してしまった.僕らは、いつのまにかジェッターの居た未来に来てしまったのだ.

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