雨の降りしきった先週の朝、出勤のために農学部北門から入構して歩いていたら、ぬれた道路を小さな黄土色のものが這い回っていた. カタツムリに似ているがドングリのような形の薄く繊細な感じの殻を背負っている.見かけたことのない生き物だった.30 個体は居たのだけれど、通勤のために構内を通過してゆくサラリーマン達は、行き先である会社のことやとりあえずたどり着かねばならない駅のことしか頭にないのだろう.足下なんか見てはいない.小さなもの達は半分以上が踏みつぶされていた.あわてて歩行に急ブレーキをかけた私は、10 個体ばかりを救済してオフィスに運んだ.取り急ぎペットボトルに収納.昼休みにネットサーチしたり同僚に問い合わせたりしたところ、オカモノアラガイであると正体が判明した.翌日の昼休みに大型タッパーを買ってきて、腐葉土と枯れ葉を敷き水分を加えた飼育容器を準備して引っ越し.本日、卵の存在を確認した.どうなることやら.
2012年4月28日土曜日
カラスに接近
野鳥というのは、ヒトがある一定の距離以内に近づくと、忽ち逃げてゆくものだと思っていた.カラスもそうだったはずだ.ところが、最近、ずいぶんに近くまで寄っていっても、なかなか逃げてゆかないものが多い気がしている.1 m より短い距離まで接近しても目が合っても、平気で柵や樹木の梢や小屋の屋根の上に留って、こちらを眺めながら首を傾げたり羽繕いをしたりしている.これは農学部構内に限られることなのだろうか.大胆カラスがたくさん居るように見えるが、実はいつも会うのは肝の太い特定の個体なのだろうか.通勤時にいつも通る私を識別して安心しているのだろうか.他の人間の接近時には逃げるのか.どのカラスでもヒトに対しては無差別に間合いを縮めるようになっているのか.そうであるなら、最近は苛められることがあまり無いからなのか.興味の尽きないことではある.
2012年2月5日日曜日
無二の一球
農学部のキャンパスの近くに中学校があって、校庭でソフトテニス部の生徒たちが練習をしている.夏頃だろうか、近くを通りかかった時に、生徒のひとりの背に「無二の一球」という言葉が見えた.被災地での調査を始めた頃で、どんな調査を行えば最良なのか、幾度となく自問自答していたので、その言葉が忘れられなくなった.現地での調査は時間が限られているので、何もかも行うことはできない.でも、しっかりとあとに残って皆の役に立つようなデータを取らねばならないはずだった.毎回の調査を無二の一球としたかった.もうすぐ1年が経つ.毎月何度も被災地での海中調査に通って来たけれど、私たちの調査は無二のものであったか.そんなふうに振り返ると、反省すべき点は次々に湧いてくる.取り返しのつかないような苛立ちすら、いくつも浮かんでくる.でも、本当の評価は後になってからでないと行うことができないはずだ.私たちにできるのは、いまベストを尽くすことだ.できる限り、ありのままの姿を科学的に刻んでゆくことなのだ.まだまだ、毎度毎度を少しずつ振り返りながら、修正を加えながら、日々が無二の一球となるように、努めるしかない.
2012年1月14日土曜日
歩き方百人百様
街角のファストフード店の窓際に座って、食後のコーヒーを飲みながら外を眺めていると、外の街路を行き交う人々のいろいろな様態が見える.服の色、髪型、体型、同伴者との位置関係、子供の連れ方、荷物の携行の仕方など、様々に違っている.それぞれが個々の生きて来た履歴から吹き出している性状だと思うと面白い.服飾に関係なく、ヒトとしての本質に最も近い要素であるのに、まさに多種多様なのは歩き方である.上体の傾け方、上下左右への振れ方、下肢の曲げ方と延ばし方、歩幅の大きさや着地の仕方などはそれぞれに少しずつ違っていて、それらの組み合わせのあらゆるパターンが用いられているように思える.どうしてだろうか.皆がより効率のよい歩き方を知っているのであれば、歩き姿はもっと相互に似通ったものになるはずではないか.競歩というスポーツがあって、歩くスピードを競うのであれば、効率よく前に進む技術は研究が尽くされているはずだ.それなら、歩き方というものは、なぜほとんど教育されないのだろうか.それとも、近年は教育されているのに私が知らないだけなのか.水泳教室は広く普及していて、老若男女が通って効率の良い泳法を学ぶ.前方遠くからつかんだ水を、しっかりとかいて後ろに運び、手を戻す時には抵抗の少ないようにするなど、そんな諸々を実技で学び取る.でも、そこで学んだことはめったに日常で使うものではない.実用として役立つのは、普通の人には海水浴の時くらいだろう.それに比べると、歩くことは日常に必須である.なんとなくできているように思えることこそ、本当はおろそかになりがちなのだ.教育課程の中で、しっかり教えてみたら良いのではないだろうか.
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