オオバモクはホンダワラ類の海藻の中で
もとりわけ変わった存在であると、私は思っている.ホンダワラ類の海藻のきわだった特徴といえば、丈が数mに達するために、藻体を水中で立たせて維持するための浮き(気胞)が枝葉の間にたくさん付いていることである.浮きの形や大きさは種によってさまざまに異なっているが、オオバモクのものは群を抜いて大きく、ひとつの長さが 3 cm を超すものもある.それに、ひとつの株のなかにも球状に近いものから円柱状で細長いものまで、いろいろな形があって、楽しい.なにが楽しいかと言えば、『つぶしがい』があって楽しいのである.指先で押すとプチッとかパリンとかバリバリといった感じでつぶれる.さまざまなバリエーションがあって飽きがこない.『むげんプチプチ』なぞ敵ではないのだ.浮きだけではない.葉の大きさもホンダワラ類のナンバーワンである.他のホンダワラ類は枝葉の細いものが一般的で、海中でつかむとモサモサふわふわした感じがするのだが、オオバモクをつかむとパリパリごわごわした感じなのだ.生育する季節も変である.一年生のアカモクや根だけ多年生のヤツマタモクたちは春になると藻体が流されて失くなってしまうが、オオバモクだけは結構な量がモサモサと夏の最中にも居残っている.繁殖期にしても、他の多くは春なのに、こいつは秋なのである.なんだかへそ曲がりで他の仲間と交わり難い感じが、私にとっては可愛らしい.
ミステリアスな側面もある.日本海側には、同種とされているけれど枝葉がとても細いヤナギモクというのが居る.下田の水深の深いところには、よく似ているのだけれど葉がギザギザのオオバノコギリモクという種も居る.これらの親戚(?)たちとはどんな関係があるのか、知りたいものである.こんな話も聞いた.九州からオオバモクがどんどん無くなっているというのである.実際に、私もかつての群生地を九州天草に訪ねたら、全く無くなっていてびっくりした.現地の研究者方に聞いたところでは、ホンダワラ類の混生している藻場で植食性の魚が、オオバモクから優先的に食うそうなのである.近年の海水温の上昇でアイゴなどの植食性魚類が北上し、オオバモクが真っ先にやられているということらしい.魚たちにとってもオオバモクは特別な存在なのかもしれない.
下田の沿岸で海に潜ると、浅い海底でもっとも目立つ海藻のひとつがオオバモクである.江戸時代末期に下田に黒船が来航したおりにも、オオバモクは目立つ海藻だったのだろう.オオバモクは他の数種の海藻と共にペリーたちに採集されて黒船に乗って海を渡り、当時の海外の研究者によって新種としての命名がなされている.下田はオオバモクのタイプ産地(新種をつくる際に基準となった標本の産地)であり、オオバモクという海藻にとっての真の故郷なのである.
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