2010年10月31日日曜日

ハキリアリとグローワーム

 夏以来、なかなか子供たちへの家族サービスをしている暇がなかった.この週末は自宅に居たが、季節外れの台風 14 号に祟られて、どこにも出られないと思っていた.だが、台風は予想よりも南の沖合を早めに通過してくれて、日曜の午前中はそんなにひどい天気ではなさそうにみえた.そこで、女房と上の子を家に残し下の子供たちを引き連れて、多摩動物公園に出かけることにした.開園直後に到着するように出かけたこと、台風直後で天候に懸念があったことなどが理由か、園内はずいぶん空いていた.ときどき小雨や霧雨のシャワーを受けることはあったが、概ね快適に園内を巡ることができて、私も子供たちも上機嫌だった.生態展示は見やすく工夫されていて、チンパンジーの UFO キャッチャーと自販機操作やオランウータンの高空綱渡りを見たり、レッサーパンダの名前当てにトライしたり、ライオンバスでガラス板をはさんで 5 cm ばかりの目前に雄ライオンの鼻先をながめたり、蝶の乱舞する昆虫パラダイス温室内でバッタ釣りをして遊んだり、などなど子供たちばかりでなく私もずいぶん楽しんだ.そんな中でとりわけ感心したのが、昆虫館のハキリアリの展示とグローワームの展示だった.ハキリアリが葉を切り抜く様子、運ぶ様子、運んだ葉を処理する様子など一連のアリたちの作業を間近で手に取るように観察できた.それは真に感動的だった.事細かに熱を込めて解説して下さったボランティアスタッフの方にも感心した.ヒカリキノコバエの幼虫であるグローワームは、ニュージーランドで見そびれていたのだが、ここで本物に出合えるとは思ってもみなかった.温湿度をコントロールされた真っ暗闇の中でじっくり見学させてもらうことができたのは、ボランティアの方のガイダンスのおかげだ.前室の薄明かりの中で眼を慣らす方法を教えてもらい、事前解説も事後解説も詳細にして頂くことができた.何を答えても即座に回答してもらえる快感を、久方ぶりに味わうことができた.

黒い富士

 子供の頃から、富士山が見えると嬉しかった.東京に住んでいた頃には、空気の澄んだ冬の日に白い姿を遠く望むことができた.家族で朝霧高原の田貫湖に出かけた時には、明け方の空にしだいに朱に染まってゆく姿を間近に拝した.一昨日、思いもかけず黒い富士を見た.29 日の深夜、台風 14 号が接近するなかを下田から東京方面に向けて走っていた.小雨が降って空は濃い灰色に沈んでいた.ちょうど深夜 0 時に西湘バイパスの石橋インターを入り、上り方面を小田原厚木道路に向かいはじめたところで、空の濃灰色よりずっと黒い山並みが遠くにはっきりと見えた.それに連なって、富士山の形を捉えることができた.雨の真夜中に黒い富士を仰ぐことになるとは思わなかったので、不思議かつ嬉しく、気持ちが昂った.小田原の街の灯りの背景となり灰色の空に影絵のように浮かび上がった黒富士は、妖しくも美しかった.

2010年10月4日月曜日

しんかい 2010 発足

 下田はワカメとヒジキのタイプ産地である.黒船来航の折りにワカメもヒジキも下田周辺の生物調査で採集して持ち帰られ、下田の標本をもとに学名がつけられたのである.つまるところ、全てのワカメとヒジキの代表格が下田産のものであり、下田こそワカメとヒジキの故郷であるということになる.この事実を下田の人たちに分かりやすく伝えようと思い、毎年 3 月に行われるワカメの観察会や下田市のホールで行われた講演会などで『Go!Go!下田のワカメとヒジキ』というブルースにしてハーモニカを吹きながら歌っていた.それが伊豆海洋自然塾のメンバーの BT さんの旦那さんでブルースギターを弾くBF さんの耳に留まった.彼はカッコ良く手直しした曲をきちんと楽譜に落として歌詞の不足部分を補って、曲を完成させてくれた.これに留まらず、われから絵本に着想を得た『ワレカラノウタ』という素晴らしい曲を作詞作曲してこの譜面も作ってくれた.ついに 2 つのオリジナル曲ができたので、これは発表する場を作らねばもったいないということで、我々はブルースギター(ネクトン B.フジオ)とブルースハーモニカ(ベントス A. マサカズ)の『しんかい 2010』というユニットを結成した.秋の下田芸術祭での下田市民文化会館大ホールでの演奏が当面の目標である.実際のところ、2 曲では寂しいので、これにブルースの替え歌なんぞを数曲加えることになった.BF さんは替え歌作詞の名手でもある.まずは、Hoochie Coochie Man の替え歌で『下田の海のワルモノ』ができた.こうなると、どこかでお披露目をしたくなる.そこで、先日の海洋自然塾の講座の休み時間を利用して、海の生き物ブルースシリーズということで、これら 3 曲を演奏させて頂いた.お互いに仕事で忙しいので、各々が練習してきて、当日いきなりリハーサルなしに音を合わせた.これを我らが盟友である Ojinabe 氏が録画してくれた.残念ながら『ワレカラノウタ』はうまく撮れなかったらしいので、『下田の海のワルモノ』『Go!Go!下田のワカメとヒジキ』の 2 曲が You Tube にアップされた.BF 氏の頼りがいのあるギターとボーカルに乗っかって私のブルースハーモニカも世間に泳ぎ出した.それにしても、何がどちらにどう転ぶか分からない.それが世の中の面白いところだ.

2010年10月1日金曜日

納豆パックを洗う

 ふとした事に、なんだか不思議な快感の伴う時がある.無限プチプチとか無限エダマメとか無限缶ビールといったおもちゃが売られているが、これらはそのへんに乗じたものだろう.なんでもない触覚が、奇妙に魅力的なことがあるのだ.納豆パックにそれを感じた.昔は豆腐屋に藁に包まれた納豆が売られていたが、最近の納豆はすっかりパック入りばかりになってしまった.かつてはパック入りは臭くて、納豆本来の風味が無いなどと言われたこともあったようだが、技術の進歩のおかげか、私たちの鼻が馬鹿になったせいか、パック入りで安売りの 3 段重ねや 4 段重ねを買うのが当たり前になってしまった.食事時にパックの中で添付のタレと辛子を入れてよくかき混ぜて、食事のおかずにするのだが、食後のパックには納豆のヌルヌルがへばりついている.これを洗うのが、私には奇妙に楽しい.水をかけつつヌメヌメを洗っていると、あるところを境にまるで霧が晴れるように、納豆の名残が消え去る.パックの白さが急に眼にまぶしくなり、暖かみのある弾力感が指先に突然触れてくる.あの感じが心地良いのだ.例えて言えば、イカの皮を剥く時やナマコを切り開いて内臓を取った後に内側の筋を取り除いて真っ白な内壁を出そうとしている時の感じに似ている.でも、これらは納豆パックに敵わない気がする

閲覧数ベスト5