2010年9月29日水曜日

鼻毛のこと

 中学生の頃だかに読んだ北杜夫のエッセイで、どんな場面だったのかは忘れてしまったが、鼻毛を抜いてはちり紙の上に植え付けるという話が出てきた.ちり紙の上に毛根を下にした鼻毛が林立する様子を思い浮べて、なんだか楽しそうに思ったが、直立するほど豪快な剛毛状の鼻毛というのは現実的なものとは思えず、フィクションではないかと疑っていた.おそらく、中学生の鼻の穴の中にはひ弱で素直な鼻毛しか生育していなかったためだろう.中年と言うべき年齢域に入ってから、鼻の穴には本当に剛毛状の鼻毛が育つ事を知り、北杜夫の楽しみを追試してみようと思ったことがある.親指と人差し指の爪先で大きな毛をはさんでエイッと抜いてはティッシュのうえに立ててみるのだが、とても痛い.2 本だけ立てて止めてしまった.どうも私に向く作業ではなかったらしい.あるいは、もう少し年を経ると、鼻毛も抜けやすくなるのだろうか.

2010年9月21日火曜日

頭だけのカブトムシ

 これも過ぎた夏の思い出となってしまった.お盆過ぎの昼頃のことである.下の息子が「兄ちゃんは残酷だ」と報告しにきた.当の兄ちゃんに聞いてみると次のような事情であった.頭胸部だけのカブトムシが居た.おそらく朝方にウロウロしていて、腹を鳥に喰われたものだろう.それでも生きていて、動いていた.下の息子は可哀想だからと瀕死のカブトムシに餌の蜜ゼリーをやった.カブトムシの前半身はその餌を食べたという.下の息子は最後の楽しみにと憐れんで餌を与えたらしい.兄ちゃんはそれをむしろ残酷だと考えた.体の下半分がなければ、痛くて苦しいに違いない.そんな体で餌を食べれば、その餌はどこへ行くのか.苦しみを助長するだけではないのか.長い苦しみを与えるよりはあっさりと死んだ方が楽に違いない.そう考えて、大きな石で潰して止めを刺してやったという.それを聞いて、私は言葉を失った.

2010年9月20日月曜日

ニューストン海水浴

 8 月 8 日の熱暑の最中に書こうと思っていた内容なのだが、あたふた過ごすうちに秋も深まり、既に夏の思い出話となった.8 月始めのある休日のことである.いくら砂浜でも泳ぐ時に足を怪我するのは嫌なので、クロックス様のサンダルを履いて泳ぎに出た.本物は高いのでいつもバッタものを履いている.普通の海水浴エリアの沖方に泳ぎ出て、水面に仰向けに浮いてみる.砂浜は人で賑わっていても、ちょっと沖合に出れば、海の表面は空いている.ラッコ的に海に浮かんで思い切り息を吸って、陽の光を浴びながらプカプカと海面で揺れているのは、何とも言えずに気持ちがよい.ウォーターベッドに寝そべっているようなものだ.そこでふと気がついた.いつもは足が沈みがちになるのだが、今年は足先までいい具合に体が浮かんでいる.クロックス様サンダルのおかげだった.ちょうど良い加減の浮力が足先を海面上に支えてくれていた.海表面の直上や直下を利用して棲む生物は、ニューストンと呼ばれる.私の、海水浴場沖合でのプライベート海水浴は『ニューストン海水浴』だ.とっても快適なのだが、広く世間に知れ渡ると、海水浴場の沖合がラッコ状人間の漂流体で埋め尽くされて、私はより沖合のスペースを目指さなくてはならなくなる.だから、ニューストン海水浴の楽しさについては、このブログを見た人と私だけの秘密としたい.


2010年9月13日月曜日

沼津市民大学のこと

 9 月 2 日に沼津市民大学の講師を務めさせて頂いた.沼津市立図書館 4 階の視聴覚ホールで開かれている 7 月から毎月 2 回全 8 回の夜の講座で、私の担当は第 5 回目だった.150 名ほどと思われる聴衆の方々は平均年齢が 65 歳くらいであると伺った.私の話は海の生物全般についてのもので、大きく重力の影響を緩和された海中生物たちでは、動物も植物もホネなしのものが多いことからお話しさせて頂いた.また、海中での昆虫の不在と、そのニッチを埋めていると思われる甲殻類の話なども続けた.90 分の長丁場だったので、中心となる話題を 3 つばかり用意した.さらに、実物の大型海藻も持って行って、話題の中休み的な部分に使わせて頂いた.皆さん始めから終わりまで本当に熱心にお聞き下さり、最後には質問も頂戴した.私よりもひと回りもふた回りも年長の方々が、文学や芸術や科学など、いろいろな分野の話題を選り好みせずに毎回聞きにお出でになっているというのは、素晴らしいことだ.衰えぬ万物への興味と素晴らしい学習意欲に感じ入った.見習ってゆきたいものだ.

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