午後8時半過ぎ、私は停留所でバスを待っていた.道を挟んだ向かい側に、間口が一間半程度で奥行きばかり長い建物があって、道路に面して店舗があった.両側に建物がないので、道端に店舗の灯りがぽつんと浮かび上がっている.店舗の向って左側はコピーと製本の店で、『早い!安い!並製本、金文字入り製本、2−6日でできあがり(要予約)』と貼り出してある.右側はドライクリーニングの店になっていて、左側の店舗と境なくつながっている.両方の店舗に共通のカウンターの中には、白髪をきちんと調えた60代くらいの実直そうな主人が居て、棚の紙を降ろしてカウンター上に拡げる作業を行っていた.製本とクリーニングというのは妙な取り合わせだなと思ったが、よく考えると両者には共通点がある.客から物を預かり、それに加工を加えて収入を得る店である.元の形を損じないように慎重に加工を加えて客に返却しなければならない.どうも店の人間の仕事の本質的なところは同じようだ.強いていえば、製本は(表紙を)加えて返す仕事で、クリーニングは(汚れを)減じて返す仕事だろうか.マイナスとプラスでバランスをとっているのだろうか、などと考えていたら、8 時 50 分になるとシャッターの支柱が店内から持ち出された.支柱が立てられてクリーニング店側のシャッターが下ろされ、表の灯りが消されて、そして製本店側のシャッターが下ろされ、鍵がかけられた.道路向う全体が暗くなって、私は何も見るべきものが何もなくなった.5 分ばかり経って、さきほどの店主が店の横から現れて道路を渡り、私の背後に並んだ.ほどなくバスがやって来て、私たちはそれぞれのねぐらに運ばれていった.
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