2008年11月28日金曜日
絵本:かさ
子供に読み聞かせをしようと思っても『読む』ことのできない絵本がある.文字のない絵本、絵が語る本である.太田大八の『かさ』にも文字がない.ひとりの小さな女の子が自宅から駅まで傘をさして父親を迎えに行く様子が描かれているのだが、絵の中では女の子のもつ傘だけが赤で、他のシーンは全て黒一色だ.女の子は父親の黒い傘をしっかりと手に持って自分の赤い傘をさして歩いてゆく.女の子が商店街や交差点や鉄道の陸橋を移動してゆく様子が近景になったり遠景になったりしながら淡々と描かれてゆくのだが、絵本を見る者は赤い傘の居場所を眼で追いながら、女の子のいる場所の情景を自分も体験してゆくような気持ちになる.子供と見ている時には、途中で出会う人や物、道沿いの店々などについて、親からも子供からも思わず知らずにあれこれと言葉が出てくる.まるでいっしょに風景の中を歩いてゆくような不思議な気持ちになるのだ.赤い傘は女の子の不安感と緊張感に点灯する信号のようにも見える.駅に到着して無事に父親を迎えて黒い傘を手渡すと、帰り道は赤い傘が閉じられて父親の黒い傘が開く.赤信号が消灯して安心感に包まれたような心持ちになる.『かさ』は赤という色がその力を思いきり発揮した、魔法のような絵本である.
登録:
コメントの投稿 (Atom)
閲覧数ベスト5
-
ワレカラ絵本は予想外に売れ行き好調だ.茨城県自然博物館で販売中の分も在庫を尽きそうだということで、お盆前に在庫補充の予定である.口コミで買って頂いている分もずいぶん出ている.自然好きの知人への帰郷時などのお土産にとお菓子代わりにドドンと買ってくれるような人もあり、嬉しい.一方...
-
ウニは受精やその後の卵発生を観察するのに理想的な生物だ.入手しやすいうえに放卵と放精を誘導しやすい.種類によって産卵期が異なっているために、対象種を変えてゆけば一年中発生の研究ができる点でも重宝されてきた.下田で実施される臨海実習では春期にはバフンウニを使い、夏期にはムラサキウ...
-
震災後の2011年7月1日からラジオ体操が日常のルーチンになったので、5年目突入だ。7月20日から今年も夏季巡回ラジオ体操が始まった。毎回の放送のはじめに開催地の解説があるため、体操自体は時間が微妙に短くなる。イントロのウォームアップ体操が2種類から1種類になり、第1体操と第2...
-
東京と熱海の間を新幹線こだま号で頻繁に往復するようになっ て、気になるものがいろいろと見えてきた.ここのところどうも気になって仕方なかったのが座席の肩の部分に飛び出しているキリンの角のような突起だ.乗る時によって、有ったり無かったりする(右の写真がツノあり、左の写真がツノなし...
-
保育園生の息子は朝食の食卓についてもなかなか食べ進まず、些細な事で気がそれては食事半ばで遊び始める.台所が片付かないうえに登園時刻は迫るので、私も女房もイライラしてくる.そんな女房が今朝不思議な言葉を発した.「早くしなさい!ちんだらはんだらすな!」女房は九州の出身でふとした瞬...
0 件のコメント:
コメントを投稿