2008年9月22日月曜日
ヒメワレカラはどこにいる?
写真は『ハネガヤにつかまるヒメワレカラの雌』である.おそらく普通の人には、ハネガヤもヒメワレカラもなじみがないし、何をもって雌と判じているのかも分からないだろう.まず『ハネガヤ』というのは海藻等の上にくっついているヒドロ虫類の一種である.ヒドロ虫類というのはクラゲやイソギンチャクに近い動物で、ポリプがあって、そこには触手があって、その触手には刺胞という攻撃用の細胞が並んでいる.そこからミクロな針が飛び出してきて、チクンとやられると痛いわけである.ハネガヤはどれかというと、この写真では黒い下のところ(海藻の表面)から木のように林立している物のことで、その枝の上の小さく丸く膨らんでいるところがポリプのあるところだ.ハネガヤは丈が 5 mm に満たぬ大きさで、ほとんど透明だしあまりに小さくて繊細なために、付着している海藻を水から上げると、海藻の表面に貼り付いて、ほとんど見えなくなってしまう.ハネガヤを探すなら、潜って海の中で海藻の表面をよく観察するとよい.『ヒメワレカラ』はワレカラの仲間だけれど、海藻にすむナナフシっぽい形の種とはずいぶんと違った雰囲気である.水泳に例えると、ふつうのワレカラの動きはクロールっぽいけれど、こいつの雰囲気はバタフライである.体全体が左右に開いていて、3対の脚がハネガヤの枝をしっかりとつかんでいる.上半身は大きなハサミ(咬脚)をいい感じに構えている.頭の上に伸ばした触角はふつうのワレカラよりも毛が少なめだ.からだの真ん中あたりの丸いところが保育嚢(育房)で、ここに卵を抱く.これがあるから雌と分かったわけだ.雄にはこの部分がない.よく見ると育房からは、左右2本ずつ合計4本の棒のようなものが放射状に突き出している.これらは鰓である.ヒメワレカラの背丈はハネガヤとどっこいどっこいでとても小さいのだが、とにかく動きがユーモラスだ.ハネガヤの枝から枝へと移動してゆく様子は、サルが木々の間を渡るようだ.実物をご覧になりたい方は、まず海の中でハネガヤを探すことである.眼のモードを切り替えて、探す対象の大きさをグッと下げてハネガヤの茂みを探してみれば、見つけられるかもしれない.ヒメワレカラ探しに貴重なエアーを使って潜るのも、たまには良いかもしれない.
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