伊豆下田は海に面していると共に山が背後に迫っている.このため、カニが徘徊する海岸付近にもイノシシが盛んに出没する.近頃はお出ましの頻度が多すぎて、実験センター構内の土手をほじくり返されて地形まで変わる始末となった.我が家に関して言えば、庭の畑の作物は、収穫頃になるとみんな掘られてしまう.それに、庭でイノシシに走り回られたのじゃ、危なくってしようがない.そんなこんなで、ついに今年の始め、イノシシが活動開始する前に、実験センターの敷地をぐるっと囲う鉄柵が築かれた.これでイノシシの出現はぴたりと止んだ.おかげで、今年はトウモロコシも芋も豆も収穫できた.でも夜中に柵ぎわでブホブホと抗議の声をあげているのは何度も耳にしていた.夏の盛りの頃に、夜中にイノシシ柵近くを通りかかったところ、柵の内側に小さなウリ坊がいるのを見つけた.柵の網目をくぐり抜けることができるらしく、どうも出たり入ったりして遊んでいるような感じに見えた.まだ生まれて間もないのか、それとも生まれついて度胸がよいのか、人に対する警戒心も薄いようで近くまで寄ってきた.そのあとからセンター内でウリ坊の目撃情報が相次いだ.どうもだんだん大胆になって来たらしく、夜中のセンター構内を駆け回っているらしい.一昨日の夜中に久々に見かけたウリ坊は、ひとまわり大きくなったように見えた.まだ柵の網目を抜けることができるのだろうか、それとも秘密の出入り口のような場所を見つけたのだろうか.私が近付くと、かなり間合いがあるのに接近を察知して姿を消した.しばらくの間に少しは怖い経験を積んだのかもしれない.
今朝女房から聞いたイノシシ話が面白かった.下田の旧町内でも、この夏はイノシシがかなり出没しているらしい.ある寺では、畑に作っていたサツマイモを一夜にして全部掘り上げられ、食われてしまったという.やはり採り時のよい頃合いに全部やられたらしい.悔しい思いをして畑に面した低い窓をふと見ると、イノシシが鼻先を押し付けてできた見事な鼻面マークが付いていたという.お寺の家族は、イノシシが芋のお礼に判子を残して挨拶していったんだなと、微笑んでいたという.そんな可愛らしい考え方のできる人たちは、心温かで素敵だな、と思った.
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