2008年12月23日火曜日
自由な象と鯨
18 世紀のアウトサイダー的絵師である伊藤若冲が、八十歳台の晩年に描いた大屏風が見つかったらしい.伊藤若冲といえば、今年の 7 月 24 日に出かけた東京国立博物館での『対決 巨匠たちの日本美術』で、とても印象的な 2 つの絵を見た.『仙人掌群鶏図襖』の生々しいまでによく描き込んであってリアルな鶏の姿は何やら怖い感じで、サボテンと鶏という構成要素は現実のものなのに、全体をみると決してこの世のことでないような、不思議な印象があった.『石灯籠図屏風』の方も、まことに奇妙だった.石灯籠がスーラの絵のような点描になっていて、でも、絵の全体は点描ではないので、石灯籠の存在に何だか胸騒ぎというか妙な高揚感を抱いてしまう.日本画とか洋画とか時代とかいろいろな流派とか、そんなものを飛び越えたのびのびしたものを感じた.こんなに面白い屏風絵は、江戸時代にどんな家のどんな空間に置かれていたのだろうか.時を遡って、その空間を覗いてみたくなった.今回見つかった屏風絵は 6 曲 1 双で、右隻に象、左隻に鯨が描かれている.これらは鶏にみられるようなリアリティーとはかけ離れていて、象はブルーナのミッフィーシリーズに出てくるぞうさんのようだし、鯨にはふつうの魚のような背びれがついている.でも、何ともいえずに晴々して、自由な感じがするのだ.「写実なんかもうどうでもいい、海と山にある大きな自由というものを描くんだ!」という感じの、静かだけれどもほとばしるエネルギーが感じられる.人生の終末までに、こんな絵を 1 枚でも描くことができたら、どんなに素晴らしいだろうかと、思わされた.
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