2009年8月3日月曜日
ヒヤリハットのクルーザー投錨
『ヒヤリハット運動』という事故回避のためのポスターを見かけた.ヒヤリとした経験やハッとした経験についての情報を集めて、危険回避の事前策に役立てようというものだ.昨日、カジメ定期計測調査のために潜った時に、研究調査のデータ収集に関わるヒヤリハットがあった.我々が、いつも通り 7 人定員の船外機付きボートで、カジメ調査ブロックの設置されている定点に向かったところ、その直上に大型のクルーザーが停泊していた.ふつうは水深のもっと浅い所に停泊するものなのだが、その見慣れないクルーザーは水深 10 m の我々の調査地点付近に無理やり投錨していた.大人が船から海に飛び込んだり、船の周りで子供を浮き輪で遊ばせたりしていたようで、どうも岸から離れたプライベートビーチ代わりのクルーザー停泊のようだった.後部デッキに出ていた人の話を聞くと、50 m 離れたところに錨を打って停泊しているという.私たちの仕事にとりあえずの障りがなければ、楽しみの邪魔をするのも野暮だと思ったので、直下で潜水作業をしているからエンジンをかけないでほしい旨伝えて、私たちは潜水した.ところが潜水して驚いた.船の錨は我々の藻礁ブロックの端に引っ掛かって止まっていた.錨の鎖とロープは移植カジメの群落直上すれすれを海面に向かって伸びている.底質を確認せずに砂底に投じた錨が、引っかかる場所を得ぬままにずるずると引きずられ、ようやくブロックに引っ掛かって止まったらしい.ブロックの上には私たちが 10 年以上にわたってモニタリングを続けてきたカジメたちが生育している.錨が引きずられる方向がわずかに違っていたら、移植カジメたちはひどい有様でなぎ倒されていたはずだ.直ちに浮上して、錨の件を我々のボートの船上に待機して操船してくれていた T 氏に伝え、T 氏からクルーザーの操船者に伝えてもらって、クルーザーの錨を移動してもらった.夏のほんのひと時にレジャーに訪れたクルーザーがきまぐれに投げ込んだ錨で、十余年におよぶこれまでの苦労がすべて水の泡になってはたまらない.しかも、その場合の破壊者は、自分たちの行った行為に気づかずに去ってゆくことになるはずである.それを考えると、全身の血の気が引いてゆく感じがした.本当にヒヤリとした.10 m という調査水深は台風や人為の影響が及びにくいことを想定して設定されたもので、これまでの 10 年以上の間には、こんな事件は一度もなかったのだ.でも、こんなことがいつでも起こりうるのだということに今回ハッと気づいて、現状の危うさを改めて実感した.残る夏の間、沖合の停泊船に注意したい.そして、海底のカジメたちの安全を心から祈りたい.
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