2008年10月15日水曜日
黒板が好きです
講義を行うために教室に出向くと、大きなホワイトボードが部屋の前面を占めている.私はこのホワイトボードとボードマーカーというものがどうも好きになれない.まずホワイトボードは表面がてらてらしている.ものを書いてそれを人が見る場所の表面が無用な光の反射を許すなどということはよろしくない.それにボードマーカーというものは、一見しただけでは使えるかどうかが分からない.新品のような外見なのに、全く書けないものがあるため、講義の前にいちいち試し書きをして使えるものを選んでおかなくてはならない.全部使える見込みがない場合には『インクの補充は事務室で』と貼ってあるシールの指示に従って、慌ただしい時間帯なのに 5 階の講義室から 2 階の事務室まで下りてゆくはめになる.講義では話の流れや間というものが大切である.それなのに、ボードマーカーではいちいちキャップを外し、また直ぐにはめなくてはならない.たくさんの生物種の分布を異なる色で表したい時、グラフを色分けして表したい時など、忙しいうえに、間が悪くてかなわない.私はやっぱり黒板が好きだ.チョークが好きだ.人間味にあふれているし、夢がある.チョークの粉には閉口するし、チョークまみれの手をズボンの脇で拭いたりすると繊維から粉が容易には落ちなくなる.思わぬタイミングでチョークが折れることもあるし、黒板をきれいに拭き取るのも容易な作業ではない.それでも、黒板とチョークには、人のイマジネーションを刺激する何かがある.チョークが身をすり減らしながら黒板の上で色を出して滑ってゆくとき、手に伝わる擦れ合う感触や文字や図のできてゆくスピードが、何か人の感性によくシンクロするのではないだろうか.黒や濃緑の背景に粉で描かれる図や文字の方が、てらてらの白いボードの上のつるつるの文字よりも、何か重く説得力をもつような感じがするのである.
登録:
コメントの投稿 (Atom)
閲覧数ベスト5
-
震災後の2011年7月1日からラジオ体操が日常のルーチンになったので、5年目突入だ。7月20日から今年も夏季巡回ラジオ体操が始まった。毎回の放送のはじめに開催地の解説があるため、体操自体は時間が微妙に短くなる。イントロのウォームアップ体操が2種類から1種類になり、第1体操と第2...
-
野鳥というのは、ヒトがある一定の距離以内に近づくと、忽ち逃げてゆくものだと思っていた.カラスもそうだったはずだ.ところが、最近、ずいぶんに近くまで寄っていっても、 なかなか逃げてゆかないものが多い気がしている.1 m より短い距離まで接近しても目が合っても、平気で柵や樹木の梢や...
-
トチノキに興味を持ったのがきっかけで、木の名前を調べ始めた.ずいぶん前に買って「積んどく書籍」になっていた「 落葉図鑑 」が活躍しはじめた.南三陸町へ向かって三陸道を往復し始めた頃だから 6 月半ば頃のこと.調査用の公用車であるダットサントラックの助手席で、高速道路の脇を埋める...
-
街角のファストフード店の窓際に座って、食後のコーヒーを飲みながら外を眺めていると、外の街路を行き交う人々のいろいろな様態が見える.服の色、髪型、体型、同伴者との位置関係、子供の連れ方、荷物の携行の仕方など、様々に違っている.それぞれが個々の生きて来た履歴から吹き出している性状だ...
-
ウニは受精やその後の卵発生を観察するのに理想的な生物だ.入手しやすいうえに放卵と放精を誘導しやすい.種類によって産卵期が異なっているために、対象種を変えてゆけば一年中発生の研究ができる点でも重宝されてきた.下田で実施される臨海実習では春期にはバフンウニを使い、夏期にはムラサキウ...
0 件のコメント:
コメントを投稿