2009年12月3日木曜日
はしゃぐシッタカ
伊豆の近辺では,磯で獲れる円錐形の巻貝を総称して『シッタカ』と呼ぶ.殻の径に対して丈が高いことから,尻高という名を語源にすると聞いている.でも,殻高のウニが『コシダカ』なのに,巻貝だと『シリダカ』なのは不思議だ.シッタカのなかでも最も美味とされるのがバテイラである.このバテイラの牧場づくりに取り組んでいる.牧場というのは,牧草を育成してそれを植食動物に食わせる場所であり,人には利用できない食物を栄養段階ひとつ経ることによって利用可能にする場所だ.ところが『海洋牧場』という言葉を耳にすることがあっても,実際に植食動物の牧場であるものは不思議と見当たらない.一般に海洋牧場というとなぜか大きな生け簀の中で大型魚類を畜養する場所がイメージされる.我々が目指しているのは,字義通り,植食動物を牧草によって育てる海洋牧場である.植食動物がバテイラ,牧草が褐藻類のカジメである.海中の大型ブロックにカジメを植え込むとカジメはそこで根付いて生長する.そのカジメを巻貝類の移動を阻む柵でブロックごと囲って,カジメを育成しながらそれをバテイラに食わせようとするシステムだ.海藻の生長速度と貝の摂食速度のバランスがうまくとれれば,手間のかからない牧場になるはずである.そうすれば,小さなバテイラを柵内に放り込んで放っておくだけで,やがて粒の揃った大きなバテイラを収穫できるはずだ.夏からの数ヶ月で,貝類移動防止柵のついた巨大ブロックを海底に沈め,カジメを植え込んだ.この『牧場』にいろいろな密度でバテイラを放って,海藻の生長と貝の摂食速度のバランスがとれるポイントを求めたい.そのため,今日の午前中にバテイラを牧場ブロックに放ちに出かけた.全ての個体には識別マークをつけて,数段階の密度となるように数を調えた.網袋にブロック単位でまとめたバテイラを入れて,海中の現場に運んだ.それぞれのブロック上の囲いの中で網袋の口を開き,密度コントロールしたバテイラを一斉に解放した.狭い場所に封じ込められていた貝たちは着底するや腹足と触角を思い切りのばして素早く体を起こして這いはじめた.多数の貝たちがいっせいに生き生きと動き始めた様子は,授業から解放されて休み時間に校庭に飛び出してくる子供達に似て,なんだかはしゃいでいるように見えた.海底で一緒に作業をしていた Y 君はこの研究の担当学生なのだが,海から上がってきて潜水器材の片付けをしている時に,全く同じようなコメントをしていた.貝たちの様子はそれほどに生き生きして見えたのである.これから,ちょくちょく彼らの様子を見に出かけることになる.彼らは牧場で元気に暮らしているだろうか.次の時も元気一杯に我々を迎えてくれるだろうか.
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